(1) 津波からの逃げ地図の作成にあたって

・ 地震時の津波発生が想定される地域では、1主体的な避難行動の徹底、 2避難行動を促す情報の確実な伝達、3より安全な避難場所の確保、4 安全に避難するための計画の策定、5主体的な行動をとる姿勢を醸成す る防災教育等の推進を目的に、津波避難計画を策定している市町村が多 い。

・ 津波からの逃げ地図の作成は、住民等がその策定プロセスに参画する手 法であり、津波避難計画の策定およびその見直しのPDCAサイクルに 位置付けることができる。

(3) 津波からの逃げ地図作成の手順

1 ハザードマップや浸水記録の入手

・被災地の場合は、行政発表の津波浸水記録と実際の地域住民の証言とは 異なることが多いので、ワークショップの最初に改めて地域住民と浸水 範囲について確認する。

2避難目標地点の設定

・指定避難所をゴールとするのではなく、安全な標高の場所に繋がる道路、 すなわち最大浸水域の境界と道路が交差する点を避難目標地点とする。 それ以上の標高に逃げるかどうかは自主判断による。

・津波避難ビルや津波避難タワーなどの高層建築物を避難目標地点に入れ ることもある。

3避難障害地点の設定

4避難時間の可視化

・避難目標地点から逆算し、単位時間ごとに色分けして色を塗って行く。 その際の基準の速度は、後期高齢者が 10% 勾配の坂を上ることを想定 して分速 43m とする。

5 避難方向の図示

・道路を色分けする際とは逆に道路の色をたどることで、ある地点から高 台に最も早く到達するルートを図示する。

・例えば、最短距離を選択するために、一度海の方向に逃げるルートを通 らなければならないなどのケースがある。実際に逃げ地図どおりに避難 するかを議論する。

(1) 土砂災害からの逃げ地図の作成にあたって

・土砂災害は災害の規模や発生時刻の予測が難しいが、逃げ地図ワーク ショップを通して、その地域の土砂災害の潜在リスクや脆弱性を認識し て、事前の対策を講じることは重要である。

・土砂災害から逃れるには、気象警報に注意し、自ら得た土砂災害の前兆 現象等に基づき、自分から安全な場所へできる限り早期に避難すること が最も重要である。

・すでに大量の降雨があり、がけがすでに崩壊あるいは避難経路ががけ崩れで通行不能等、外部へ避難すると逆に危険なケースもある。
土砂災害特別警戒区域内にあっても2階建て以上の鉄筋コンクリート造の建物であれば、建物内にとどまり、がけ斜面と反対側に避難すれば安全であるとされている。

・土砂災害からの避難場所は、避難開始のタイミングに応じて検討する必要がある。

1避難準備情報時:要援護者を車などで計画された避難場所へ避難
2避難勧告時:避難警戒区域外への避難
3避難指示時:安全な建物の安全な場所又は避難警戒区域外

(2) 土砂災害から安全な避難場所とは

・土砂災害警戒区域外

・土砂災害危険箇所からある程度離れたがけ上又はがけ下

安全ながけ上:がけの上端から 10m を超えた場所

安全ながけ下:がけの下端からがけの高さの2倍(最大 50m)を超えた 場所

(3) 土砂災害からの逃げ地図作成の手順

1 土砂災害警戒区域等の想定危険区域を地図上で確認する ・各都道府県が公開している土砂災害警戒区域と土砂災害危険箇所の

地図情報を入手する。

・土砂災害警戒区域(および土砂災害特別警戒区域)の位置や範囲を 把握して、ベースマップに記す。

・土砂災害危険箇所(土石流危険区域、急傾斜地崩壊危険区域、地滑 り危険箇所等)の位置も合わせて参照することが望ましい。

・過去に崖崩れや地滑り等が発生した地域では、小規模でもその履歴 や位置を予め把握しておくか、WS のグループワークの際に、地域 住民からの発生箇所や状況を確認し、地図に記すことが望ましい。

2 避難目標地点の設定

・土砂災害からの逃げ地図は、避難勧告時を想定して作成する。

・避難目標地点は、雨風をしのげて一定の時間滞在可能な屋内の避難 場所について、土砂災害ハザードマップと建物の構造・階数の両面 から設定する。

安全な場所→「(2)土砂災害から安全な避難場所とは」参照

安全な建物→鉄骨鉄筋コンクリート造の堅牢な構造で2階建て以上の 建物

・土砂災害警戒区域内にあっても「安全な建物」は、緊急避難場所に なりうるが、逃げ地図作成にあたっては、土砂災害警戒区域外の避 難目標地点を設定して検討する。

・公的施設だけでなく民間施設(ホテルや民家等)も避難場所として 考えられるが、設定する場合は関係地権者との合意形成が必要とな ることから、公的施設と民間施設では色を変えて区別できるように すると、その後の議論に役立つ。

3 避難障害地点を設定する

・土砂災害警戒区域内および土砂災害危険箇所は通行上危険性が高い。したがって、避難障害地点として×印を記して通行不可とし、そこ を避ける経路を選択する。

4 避難時間を可視化する

・避難目標地点から逆算し、単位時間ごとに色分けを行う。歩行速度 を 43m /分として色分けを行う。

・一般に夜間の歩行速度は昼間の 80% 程度低下することから、歩行速 度を 34m /分として避難時間を可視化する。雨天時の避難速度もあ る程度低減するものと思われる。

5 避難方向の図示

・避難警戒区域外への避難方向の検討後、一定時間とどまる避難目標 地点への避難方向に矢印を入れる。逃げ地図自体はあくまでドライ に最短ルートの避難方向を図示する。

(1) 地震火災からの逃げ地図の作成にあたって

・地震火災は、その発生場所や延焼方向が一様ではなく、予測が非常に難 しいが、逃げ地図ワークショップを通して、その地域の地震火災の潜在 リスクや脆弱性を認識して、避難に関する事前の対策を講じることは重 要である。

・地震火災は初期消火が困難であることから、その被害を逃れるには、建 物の耐震対策および防火対策が基本であるが、延焼火災から安全な場所 へできる限り速やかに避難することが重要である。

・災害時にどこを通ってどう逃げるかという定めは特にないことから、状 況に応じて、個々の判断で(あるいは住民間の誘導により)安全な避難 ルートを選択する。

・逃げ地図作成の目的は、事前の防災(減災)対策を講じるためのリスク・ コミュニケーションであり、地図作成そのものではないことを十分に認 識し、その目的・目標を確認した上でワークショップを開催する必要が ある。特に地震火災リスクの大きい地域は道路が細分化され、色塗りに 多大な作業量を伴うことから、色塗りに注力しすぎないように留意する。

(2) 地震火災から安全な避難場所・避難路とは

1地方自治体が指定した広域避難場所 火災の輻射熱から身体の安全性を確保するには 10ha 以上の面積が必要。 2広域避難路(幹線道路):原則幅員 15m 以上

大火災時の広域避難場所への避難を想定して整備された幹線道路。延焼を 遮断し、避難者の安全を確保するために遠藤建築物を不燃化(沿道 30m 幅の建築物の高さ 7m 以上、不燃化率 70% 以上)

3地区防災道路(主要生活道路):原則幅員 6m 以上

地区内から広域避難路・広域避難場所へ逃げるための主要な道路。地区内 の延焼拡大を抑制し、近隣の火災から安全に避難するために沿道建築物 を耐震・不燃化(高さ 5m 以上、間口率 70% 以上)することが望ましい。

4緊急避難路(敷地内通路)の確保

身近な避難路が閉塞したり沿道火災で逃げられなくなった際に、反対側か ら隣接敷地を通って緊急避難するための通路。必ずしも通路の形状であ る必要はなく、隣接敷地との間の塀に扉や避難用の階段を設置しただけ のものもある。

(3) 地震火災からの逃げ地図作成の手順

1地震火災に関するハザードマップの入手

・都道府県や区市町村によっては地震火災に関するハザードマップを作成・ 公開しているが、一律ではないことから、どのような種類のマップがあ るか把握し、入手する。

例)国土交通省ハザードマップポータルサイト→ http://disaportal. gsi.go.jp/bousaimap/index.html?code=1

・火災危険性に関するハザードマップは、町丁目別に危険度を5段階表示 したものが多いが、逃げ地図作成のベースマップにはなりえないため、 防災対策を検討するための参考資料として活用する。

・地震火災からの逃げ地図を作成するにあたっては、木造建築物が密集し た区域を表示した火災危険区域図を用意することが望ましい。具体的に は、GIS(地理情報システム)を活用して隣棟間隔 6m 以内の木造建物 が 5,000m²以上連担している区域を表示する。

2避難目標地点の設定

・地震火災により大規模な延焼火災が生じた場合は、広域避難場所の入り 口が避難目標地点となるが、一時避難場所に集合し、安全な広域避難路 等を経由して向かうことが想定されることから、避難目標地点は段階的 に設定することが望ましい。

・対象地区に広域避難路が整備されている場合は、広域避難路と交差する 道路の交点を避難目標地点として定める。対象地区に広域避難路が計画 されている場合は、広域避難路の計画路線と交差する道路の交点を避難 目標地点として定め、現状の場合と比較すると、広域避難路の整備効果 が一目瞭然でわかる。

3 避難障害地点の設定

・火災危険区域は通行上危険性が高いため、その境界部は避難障害地点(×) として記し、それを避ける経路を選択する。

・幅員4未満の狭隘道路に面して老朽木造建築物または老朽ブロック塀が ある場合は、そこを避難障害地点(×)として記し、それを避ける経路 を選択する。

4 避難時間の可視化

・避難目標地点から逆算し、単位時間ごとに色分けを行う。避難にかかる 歩行速度は 43m /分とし色分けを行う。

・一般に夜間の歩行速度は昼間の 80% 程度低下することから、歩行速度 を 34m /分として避難時間を可視化する。

5 避難方向の図示

・地震発生時は倒壊した建物等からの救護救援、火災発生時は初期消火が 重要であるが、地震火災時は適切な避難誘導が重要である。

・火災発生地点やその延焼方向は一様でないことから、実際には状況に応 じて臨機応変に避難する必要があるが、逃げ地図作成時には想定される 状況について話し合いながら、避難にかかるリスクを避ける方向を検討 することが重要である。

(2) 津波と土砂災害の複合災害からの逃げ地図作成の手順

1 ハザードマップの入手 ・津波ハザードマップと土砂災害ハザードマップを入手して、両方の マップを重ね合わせて想定災害区域を明らかにする。

2避難目標地点の設定

・ 避難目標地点は、津波浸水想定区域および土砂災害警戒区域等の外 に位置する地点に設定する。具体的には、津波からの津波避難地点 を設定した後、土砂災害警戒区域等と重なった地点を除く。

・ 地域によっては、上記の設定方法では避難目標地点が数カ所に限定 される場合がある。その場合は、土砂災害警戒区域を現地で点検して、 避難目標地点の設定の可否を任意に判断して、逃げ地図を作成する 方法もある。

3避難障害地点の設定
・ 土砂災害警戒区域等を通過して避難しないように、土砂災害警戒区

域等から避難する場合以外は、当該区域内の道路・通路は、避難障 害地点とする。

・ 地域によっては、上記の設定方法では避難経路を設定できない場合 がある。その場合は、土砂災害警戒区域を現地で点検して、避難障 害地点の設定の可否を任意に判断して、逃げ地図を作成する方法も ある。

4 避難時間の可視化と避難方向の図示

・避難目標地点から逆算し、単位時間ごとに色分けを行う。歩行速度 を 43m /分として色分けを行う。

・一般に夜間の歩行速度は昼間の 80% 程度低下することから、歩行速度を 34m /分として避難時間を可視化する。雨天時の避難速度もあ る程度低減するものと思われる。

5 避難方向の図示

避難目標地点への避難方向に矢印を入れる。逃げ地図自体はあくまで ドライに最短ルートの避難方向を図示する。